有り余る承認欲求と自己否定感をぎゅっとしてブワッとするところ。

電車と生理痛

ここ数日、電車の遅延が凄まじい。
私の通勤時間は日によって違うため同じ時間に毎日遅れている訳ではないのだが、
私が乗る時間になぜかだいたい遅れている。
そして遅延の理由に「列車がお客様と接触」が多い。
みんな死にすぎだ。

私は5月病とは無縁の生活パターンなのであまり関係ないはずなのだが、
この数日死にたさが強すぎてどうもおかしい。
連日の人身事故情報に気持ちが引っ張られているのかな、と思っていたら生理がきた。これだ。女なんてしょうもない生き物だ。

今日も帰りにピンポイントで人身事故があったらしく、うんざりしながら電車を待っていたがやがてホームがすし詰状態になってきたため気分が悪くなりカレーを食べに行くことにした。
気分が悪くなってカレーを食べるというのは人には理解されないことと思うが私はこういう体質の人間である。
自分でも理解できない。

駅構内にあるカレー屋で腹を満たしてから、スマホで電車の運行情報を確認した。
動いてはいるもののかなりダイヤが乱れている。こういう場合電車に乗れたはいいが、
信号待ちの途中停車などで家に帰るまでにかなり時間がかかるだろう。
電車の中でイライラするのは嫌なので、喫茶店で時間を潰すことにした。
喫煙席に案内してもらい、タバコを一本取り出した時気づいた。
ああ、この季節の喫煙席って寒いんだった。

暖かい季節の喫茶店は空調が効いている。
とりわけ喫煙席は空気を循環させるのに必死なのか余計に冷える。
長居をさせないための対策と思えるくらいに寒い。
ちなみに女性客が多い洒落たカフェなどはそんなに冷えない。
もちろん喫煙席もないから必死で空気清浄する必要もなく、むしろなんかいい匂いがする。
でもここは駅構内でタバコが吸える貴重な空間だ。
男性客も多いし今日は暖かい日だった。空調が効いてて当然だ。
時間潰しにきたのにこれじゃ寒くて長くいられない。完全に失敗した。

コーヒーとチーズケーキを注文してタバコを吸っていると、すごく嫌な感じの香水のにおいがしてきた。
趣味の悪い派手な靴を履いた成金っぽい中年男性がつけてる香水の匂いだ。
大阪の飲み屋によくいて水商売の女と付き合っているような男の嫌な匂いだ。
隣のテーブルの男の足を見た。
白いスリッポンに変なスタッズがたくさんついている、思った通りだ。
丈短めのズボンから見えるすね毛が汚らしい。
「今店におるん?時間あったら合流せんかなと思ってんけど」
誰かと電話をしている。声がでかい。
これ以上香水臭い人間がきて隣でペチャクチャ喋られては堪ったものではない。
五感が死んでしまう。
合流しないでくれ、と心の中で念じていると「え!?まじで!?どこおるん!すぐ行くわ!!」と叫んで店を出て行った。声がでかいんだよ。
チラッと顔を見ると結構若かった。年下かもしれない。
その歳でクサイ香水つけてそんな靴を履くなんてどんな仕事しているんだろう、と思いながらもホッとした。

しかし香水クサイのがいなくなっても寒さは変わらない。
ホットコーヒーを飲んでも体の震えは止まらない。
そして今日の私は生理中で絶不調だ、体が冷えると動けなくなる。
いつもなら嬉しいはずのケーキに添えられたバニラアイスも今は拷問だ。食べるけど。
ケーキを食べ終え3本目のタバコを吸い終わったあと、もう一度運行情報を見ると遅れは数分程度になっていた。
もう限界だ。せっかくのチーズケーキもアイスもあんまり美味しく食べられなかった。
早足で店を出て電車に乗り込む。

やっと帰れる、喫茶店は失敗したけど、カレーはおいしかったし良しとしよう。
カレーは神の飲み物だな。
なんて考えていたら、突然下腹部に鈍痛が走る。
きた、しかも久々に酷いやつだ。
ドアにもたれ掛かり手すりを強く握って痛みに耐えた。立っているのでやっとだ。
前のサラリーマンが怪訝な表情で見つめてくる。
男性からこんな熱い視線を送られるのは久しぶりだな。
さっきまでダイヤが乱れていたから、この人ももしかしたら少し時間を潰して今やっと帰路についているのかもしれない。
そんな中「急病のお客様」のせいで電車が減速したりしたらストレスが凄まじいだろう。
このサラリーマンのためにも耐えなければ。

一度電車の中で体調が悪くなり、「急病のお客様」になってしまったことがある。
私が覚えているのは次の停車駅で降ろされる際の周りの冷たい目だけだ。
朝のラッシュ時だったため迷惑千万だっただろう。
あの視線の数々を思い出すだけで辛い。
生きててごめんなさいという気持ちでいっぱいになる。

私は酷い生理痛でも意識を失うほどではないため、「急病のお客様」になることはないと思いつつも、痛みで座り込んでしまうと車内のSOSボタンを押す人がいるかもしれない。
そうなるともう「急病のお客様」だ。大したことない「急病のお客様」ほど疎まれるものはない。
痛みに耐えるため全然違うことを考えようとしたが無駄だった。

なんか数年前に当時好きだった年下の男からいきなり「セフレが妊娠したかもしれない」と相談を受け、うだうだ女みたいに嘆き結婚しないと駄目やろか、とか言い出したので悩む前に病院に連れていけ、とキレつつも冷静に答えていたことを思い出していた。
結局その数日後に相手の女は生理がきたらしく、なんだこいつらしょうもないガキだなと冷めつつもやっぱり私はその男が好きなままだった。しょうもないのは私である。

そんなことを思い出している間に、痛みはおさまらないまま降りる駅についた。
サラリーマンの心の平穏は保たれた。よかった。
いつもならコンビニでお菓子を買って帰るが今日は前屈みで腹を押さえながらなんとか帰宅した。
鎮痛剤が効いて今になってお菓子が食べたくなっている。女なんてしょうもない生き物だ。